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焼き芋2本。

先日、ぼさぼさに髪がのびた子どもの散髪に、大阪市内へ。

子どもは小さい時は私がぐるりとパッツンに切るスタイルで問題なく生きていたけど、

年長さんのある時、もうパッツンは嫌だと言い出した。

それで、どうしようかなと思っていたら、近所のご縁のつながりで、堀江のお洒落な美容院でお洒落な美容師さんに、お洒落に散髪をしてもらうことになって、それ以来、子どもの散髪は堀江に出かけている。プロの腕前は流石で、髪が伸びても見かけ的には自然な感じで、それなりな感じなので、かなりボサボサになるまで放っておけるので、出かけるのは実質年に数回なのだけれど。


予約の時間に間に合う様に逆算して家を出る、ということが超絶苦手な私は、子どもと一緒だということも考慮してかなり余裕をもって家を出る時間を設定したにもかかわらず、やはりすべてはギリギリで、家を出ると雨が降ってきてカッパを着たりもたもたして、電動自転車の後ろに重たい9歳をのせて、電車、間に合わないかも!と焦りながら必死で坂道をこいで登って、駅についた時点でもうすでに色々とぐちゃぐちゃでぎりぎり。

なんばで乗り換えるときに、子どもがどうしてもトイレが我慢できないとトイレに走ったり、私が、210円の回数券を使って乗車していたことを忘れて改札を通ろうとしたらピンポーンとなって通れず、乗越料金精算をしに戻る必要があったり、などの事柄がおこり「乗り換え案内アプリ」の通りに乗るはずだった地下鉄は、私たちがホームに降りた時点でプシューっとドアが閉まって発車して、次の電車までホームで8分待つ。

その時点で予約の時間には間に合わないこと確定で、美容院に少し遅れますスミマセんの電話をして、そして最寄り駅についたら2人で色々と振り乱して小雨の中猛ダッシュして、結果3分遅れで美容院に着いた。


白が基調の清楚でおしゃれでハイセンスな、全てがピシッと完璧な美容院。美容師さんもなんというか容姿も話方も、無駄と隙がなく何もかもが完璧。

あまりにも自分のあり様が成っていなくてわちゃわちゃで、場違いなところに自分がいるような気がして、美容室という場所では私はいつも緊張するのだけど、さらに時間に遅れてしまい申し訳ないし、小雨の中、猛ダッシュのあとで全ては乱れまくりの私は、もう何となく縮こまる思い。


散髪中に子どもがじっとしている様にいつもタブレットで動画をみせてくださるのだけれど、「何みる?」と聞かれて、こどもは「クレヨンしんちゃん」と即答。

子どもは軽い花粉症の様な感じの鼻の具合だったのだけども、散髪中に”しんちゃんの何か”に爆笑して笑いすぎてその勢いですごい量の鼻水が両鼻からドバッと漫画みたいに出てきて、このご時世、美容師さんきっとこんなん嫌だろな‥と、慌ててハンカチを手渡しながら私はますます縮こまる思い。


そうこうしているうちにも、子どもの頭髪はプロの腕によって、素敵に短くなって、ワックスまでつけてもらって見違えるほどかっこよくなって、すっきりさっぱりして美容院を出たのだった。



雨もほぼやんでいたし、地下鉄は乗らずに難波まで散歩がてら歩こうと出発したのだけど、子どもがちょっとお腹が空いたというので大通りにでたところでスーパーがあったので、おにぎりでも買おうかと入る。天気のせいかこのご時世のせいか日曜なのに人通りは少ない。

入り口を入るとまずはエスカレーターがあって、店内は2階という構造のスーパーなようだった。入り口付近は少し古くて、寂れた雰囲気が漂っていた。ちょっと田舎町のスーパーの雰囲気。市内だけど。


エスカレーターを登るとすぐのところがちょっとした休憩スペースみたいになっていて左の方に店内が広がっているのだけど、その休憩スペースに黒いかたまりみたいな感じで髭の生えたおじいさんが背中も首もまるめてじっとすわっていて、傍らには機内持ち込みサイズの灰色のスーツケースがあって、それはもう古びて汚れたスーツケースなのだけど名前と住所みたいなのと電話番号がマジックでそれも薄くなってたけども書いてあったのが目に止まった。

名前は漢字3文字で私には読めない見慣れない漢字だった。


まあ、私は特に色々は深く考えないようにして店内に入って、すぐにおっちゃんのことは忘れた。

おにぎりやらお惣菜コーナーみたいなところをのぞいて、子どもは昆布のおにぎりを選んでお菓子も買いたいとお菓子の棚へ。

私はぶらぶらとお惣菜コーナーをみていたのだけど、パックに入った焼き芋がそこにならんでいてなんとなく私は手に取った。1本入りと2本入りのパックがあって迷ったのだけど、子どもも食べるかなと思って2本入りにした

で、子どももラムネかなんかを選んできて、飲み物も買おうかということになって、あったかいお茶にしようとなった。あったかいお茶の棚には「レンジであっためることもできます」という文字がけっこう大きめに書かれているのが目についた。並んでいるお茶は冷たくはないのだけれども熱くもなく生ぬるい感じで、こどもも私に「これ電子レンジであっためられるねんで」と言ってきた。

その前日には子どもがお友達の家族のお出掛けに一緒に連れて行ってもらっていたのだけど、どうやらその時に、お友達が”あったかいお茶”をコンビニのレンジでチンしていたらしくて、それが印象に残ってたみたい。

焼き芋もパックに入って冷めていたので、そうやな、どうせならあったかい方がいいなと私も思って、レジでお金を払ってから電子レンジを探したのだけども見当たらず、レジのおばちゃんに尋ねると、向こうの方を指差して、あそこですと言われて、

みるとエスカレーターで上がってきてすぐのところにある休憩スペースにポットと並んであるのだった。

そこは、あのスーツケースのおっちゃんがすわっているところ。

で、私はおっちゃんのことを思い出した。

で、休憩スペースに行ったのだけど、よくみるとおっちゃんはうたた寝をしているのだった。まるまってうなだれた頭は電子レンジの横5センチくらいというちょー近距離。

そろーっと電子レンジの扉をあけてお茶と芋を入れて、1分半のボタンを押した。

ウィーンと音がしている間、じっとしていたのだけれど、その1分半、私はうたた寝をするおっちゃんをじーっとみることになった。

色々と着込んでいて毛糸の帽子もかぶっていて痩せているのかとかはわからなかったけども、日に焼けてたくさんのシワが深く刻まれた顔には白髪の混じった髭が生えて修行者のようで、机の上に無造作にある手と変色した爪にはそれはそれは長い年月が染み込んでいる感じだった。

何より強烈だったのは、そこに充満している臭いだった。

スーパーに入る時は通り過ぎただけだったから気づかなかったけど、そこに立ち止まるとわかるなんともいえない臭い。動物臭というかなんというか。

おっちゃんは明らかに何ヶ月も着替えていないだろうしお風呂も入っていない様子だった。

もう、何かの塊という感じ。

レンジがチーンとなってもおじちゃんはうたた寝しているまんまで、

頭はレンジの扉を開けれるかどうかもビミョーなくらいの距離感でぐらんぐらんしている。私はまたそろーっと扉をあけてお芋とお茶をとりだした。

取り出したお芋もお茶も1分半は短かったのか、チンする前とそんなに変わらない感じの温度だったけど、もう一度レンジにかける気はなくてもう行こうと思ったのだけど、なんかもうどうしようもなくて、ちょっと目が覚めた感じで頭をもちあげたおっちゃんに、とっさに、おっちゃん芋食べる?と声をかけてしまった。

おっちゃんは一瞬目を開けて寝ぼけた感じのままでもはっきりと「おおおお」と言って手が動いたので、2本あった芋の一本をトレーと一緒におっちゃんの前のテーブルに置いて、子どもとエスカレーターをおりてスーパーをでた。

目をひらいたおっちゃんの顔は優しい顔だった。


スーパーを出て大きな通りの横断歩道の信号待ちをしながら、私は、ちょっと不安になってきた。

ちっちゃい芋1本なんて、お腹の足しにもならんだろうし、それに中途半端になんか食べたら余計にまたお腹空いたりもするかも‥そういえば芋はのどにつまる‥飲み物もおいとけばよかったんかな。スーパーの人、おっちゃんが万引きしたと勘違いしたらどうしよう‥レシート置いてくればよかったかな‥とか。

トレーと芋1本を置いてきたので、もう一本の芋は手に持っていて、それはパックの外見からはわからなかったのだけど想像以上にやわらかくて、ひとくち食べてみるとものすごく甘かった。糖度が高い品種の芋だと思うのだけど。びっくりするくらい甘い。

それは持っているだけで手がべとべとになるくらいで、こりゃあおっちゃん、口も手もべとべとになるやろな‥べとべとがもとでスーパーの人とのいざこざになっておっちゃん追い出されてたらどうしよう‥と思い始めたり。もう色々ぐるぐるぐるぐる考えはじめて、

ああ、中途半端ないらんことしたかも私‥と後悔というかなんというかどうしたらいいのかわからない感じの思いに、べとべとの芋をてにもちながらしばし苛まれた。


ただ、あのときはもうああなるしかなかった。

なんであんなへんな構造のスーパやねん!?って思うし、レンジを使う習慣がない私が、スーパーでレンジを使うとか今までの人生でもほぼない私がなんであの時レンジを使うことになってん??って思うし、なんでおっちゃん、レンジのま横でぐらんぐらんうたた寝してるねーん!?って思うし。


べとべと芋は結局ビニール袋に入れて家に持って帰ってきたけど、食べようと思うとあのときのキョーレツな臭いがぶわーっと蘇って、食べれなかった。臭いの記憶、臭いのイメージって結構脳裏に焼き付くもんだ。


で、あの日、このご時世とはいえびっくりなほど人通りの少ないなんばまでの道をぶらぶら歩いているときも、

そして、何日かたった今でも?????なのは、

あの空間には食べるものが溢れ返るほど陳列されていたのに、その空間のすみっこにいるおっちゃんが、多分けっこう空腹、ってなんでなん????ってこと。

言葉にならないなんでなん???がずっとある。

あの古びたスーツケースには実は万札がぎっしりつまっているかもしれないし、いろんなことは私はなにもわからないのだけれども。



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